スポーツ障害のバックグラウンド
2014.04.01コラム
若年者のスポーツ障害
かつての根性至上主義はなりを潜め少子化の影響により成長期のスポーツ障害は改善傾向にあります。子供達の成長期におけるオーバーユースでの成長障害や外傷は指導者の知識の向上もあり、比較的減少しているといえます。しかし、その反面インターネットなどの情報網が普及し、幼少期からプロに向けた技術の習得を目指して親が一生懸命になり、子供達もより高度なスポーツの技術を身近なものとして受け止め、その技術の取得のために、自分自身で無理をして障害を惹き起こすケースも散見されるようになりました。
診療の場面において、障害そのものを治す事は、整形外科医として当然の義務ですが、治すことだけを考えた視野で患者さんを診ていると、時に思わぬ落とし穴に陥ってしまいます。個々人の持つ解剖学的な要因(体形、姿勢など)を考えることなしに、ひとつの障害の本質的な解決にはなりえません。また、各スポーツの持っている競技特性も障害を考える上では重要な要素であり、各々障害を予防するためには、鍛えるべき筋力の部位も異なってきます。これらの要素を診察の始めにまずしっかりと把握することが治療の第一歩と考えています。そしてこのことを子供達に理解してもらい治療にあたることが障害の治療のみならず、再発予防につながる一番の近道だと考えています。子供にも分かってもらえるような平易な表現での指導を心がけています。 スポーツのレベルがどのようなものでも、自分の体の特徴を知り、スポーツの競技特性を正確に把握する事が最も重要なことと考え治療を行っています。
スポーツ愛好家におけるスポーツ障害
スポーツ愛好家の皆さんは様々なレベル、目的の方がいらっしゃいます。若い頃から続けているバレーボールを60歳、70歳になっても続けたいと考えている方、週1回、テニススクールに通い始めた方、またトライアスロンに出たくて、ジョギングを始めた方など。一様にいえる事は体を動かすことに喜びを感じ、スポーツを愛しているということ。
どのようなスポーツにもいえる事ですが、初心の段階では故障が起こりやすい。筋肉の使い方の悪さや、過度にやりすぎてしまう傾向があります。ウォーミングアップとクーリングダウンそれにストレッチングなどが重要な要素となります。競技特性を考えた上での必要な筋の筋力アップや、フォームの矯正も必要です。これらの指導を重点におき患者さんのリハビリを行っています。これとは逆に、ベテランのスポーツ愛好家の方は、筋肉の使い方は上手ですが、長年使用してきた筋肉や、関節に疲労が生じてきていることがあります。
よく医者に行って「どこそこの関節が傷んでいるので、もうそのスポーツは止めたほうがいい」と言われることがあります。医者の立場からすれば、スポーツを続けることによりその関節がさらに傷んでしまうことが予想され、このような指導になるのですが、私は少し違った考えを持っています。スポーツは「体によくって、体に悪い!?」 多かれ少なかれ、長年スポーツを続けていると、どこかに負担がかかってきます。勿論それはスポーツのみならず、老化という言葉に象徴されるように、人間のからだは、加齢とともにどこかしら傷んできます。スポーツを止めることによって、一定の負担が軽減され、その関節の障害はそれ以上進まなくなります。だから、そのスポーツを制限する。しかし、考え様によっては、この制限で好きなスポーツが出来なくなり、それ以上に、精神的に悪影響を与える事もあり得るわけです。何とか傷んだ関節など故障部位と上手に付き合って、自分のやりたいスポーツを続けてもらいたい。これが私の基本的な考えです。ある意味で乱暴な考えとも言えるのですが、制限することばかりが医者の役目ではなく、精神的な満足を持ちつづけることに手を貸すことも出来るのではないかと思います。
競技レベルでのスポーツ障害
スポーツの中において、一番高度なスキルを要求される分野が競技レベルでのスポーツでしょう。プロレベルから大学、実業団、インターハイレベルまでスポーツにおける頂点と考えてよいと思いますが、運動神経はもちろん肉体的にも高度なものを要求されます。怪我や故障は日常的に起こりますがスポーツに対する思い入れは強く一刻も早い復帰を考えている人がほとんどです。
幸いにしてプロサッカーチームの選手を診る機会があります。恐らくスポーツする人間としては限界まで鍛えられた肉体と思いますが、少々の怪我には動じないがいったん故障した場合非常に時間がかかるケースがあります。スキルの高い選手ほど自分の体に関心が高いといえますがこのような選手を如何に現場に復帰させるか、またさらに如何にスキルアップさせるかが課題です。
医学的に十分な知識を持ったトレーナーが、けがの程度に応じたまた個人のレベルに応じた復帰のメニューを考えることが重要であると思います。当院ではプロの現場で経験をつんだトレーナーがこの手助けが出来ると考えています。
南谷クリニック副院長 南谷哲司